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2024.05.17
SCIENCE

週1回のグリコアルブミン測定×アプリが2型糖尿病を持つ方の血糖管理を改善

低/非侵襲・低コスト・分かりやすい次世代自己血糖モニタリング法の確立へ

発表のポイント

  • 世界で初めて確立したグリコアルブミン (GA) 郵送検査法を用いて、2型糖尿病のある方の在宅血糖モニタリングへの応用を研究。
  • 週に1回在宅で自己採血した指頭血を郵送し、測定結果を本人のスマートフォンアプリで確認できる新たなモニタリング手法を実現。
  • 2型糖尿病のある方を対象にオープンラベル無作為化比較試験を実施した。郵送GA測定と行動変容アプリを使用した介入群において、標準治療のみの対象群と比較してHbA1c、GA、体重などの指標が有意に改善。
  • 得られた改善効果は、開発中の完全非侵襲な唾液郵送検査法や、指頭血による微侵襲な迅速検査法(POCT)、更には行動変容アプリの改良によって今後一層強化されることが期待される。

概要
医療法人社団 陣内会 陣内病院の陣内秀昭院長、東京大学医学部附属病院 糖尿病・代謝内科の相原允一助教、熊本大学病院糖尿病・代謝・内分泌内科(大学院生命科学研究部)の窪田直人教授、東京大学発医工連携スタートアップである株式会社Provigateの関水康伸代表取締役CEOらによる研究グループは、週に1回の在宅グリコアルブミン(GA)検査と行動変容アプリを併用することで、2型糖尿病のある方の血糖値や体重などが有意に改善することを見出しました。
グリコアルブミン(GA)値は過去1週間程度の平均血糖値の変化に応じて鋭敏に変化すると期待されます。そのため、週1回GA値を測定すれば、直近1週間程度の食事、運動、服薬など血糖値に影響する生活習慣の変化を、GA値の変化として簡単に数値化できると考えられます。しかし、在宅でGA値を測定し行動変容に活かす研究はこれまでに報告がありませんでした。
今回の成果を受けて、研究チームはより手軽で侵襲性の低い在宅迅速検査(POCT)法や唾液による郵送検査法の研究開発、及び専用の行動変容アプリの改良も進めています。これらは、将来的により良い糖尿病治療の実現につながることが期待されます。
本研究成果は、5月16日(中央ヨーロッパ時間)にDiabetes Therapy誌のオンライン版で掲載されました。


発表内容
【研究の背景】
今日、糖尿病の臨床現場では、自己穿刺による指頭血で瞬間の血糖を測定する血糖自己測定(SMBG)、インプラント型で連続的に間質液糖を測定する持続血糖モニタリング(CGM)、間接的に1~2か月の平均血糖を測定するHbA1c注4などが血糖管理の指標として使われています。SMBGやCGMは、特にインスリンなどの注射製剤を利用される方にとっては注射量の決定や低血糖の回避のためには欠かせないものです。また、HbA1cは糖尿病の診断基準の要素として信頼性の高いものです。

しかし、糖尿病のある方の日常的なモニタリング行動変容の道具という視点では、いずれも理想的な手法とは言えません。SMBGは測定の瞬間の血糖しか分かりませんので、血糖変動の全貌を知るためには、1日に頻回の指先穿刺が必要となります。CGMは皮下にフィラメント状のセンサをインプラントする必要があり、しかも10日から14日間に一度、アプリケーターで穿刺し、センサを置き換えねばなりません。いずれもコストが高く、人口の約10人に一人に達する糖尿病の方すべてが利用するには、侵襲性・コスト・使いやすさの点で課題があります。また、HbA1cは糖尿病の診断や長期の血糖管理の目標としては有用ですが、赤血球の寿命が120日と長く、緩やかに変化するために、直近の血糖変動を反映しにくく、行動変容の指標としては適していません。求められているのは、万人向けの経済的・低/非侵襲・簡便な血糖測定法です。

そこで、東京大学大学院工学系研究科の坂田利弥准教授及び東京大学大学院医学系研究科の窪田直人特任准教授(当時)らは、2012年に採択されたJST START事業[1]を皮切りに、10年超にわたり革新的な血糖モニタリング法の確立に向けて医工連携での機器開発・臨床開発を進めてきました。2015年には国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)START事業の成果をもとに東京大学発医工連携スタートアップである株式会社Provigateが創業され、2016年に採択された国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)研究開発型スタートアップ(STS)事業[2]では涙液と血液のグリコアルブミン(GA)値が強く相関することを見出し、完全非侵襲な血糖モニタリング法の可能性を見出しました。

GAとは血中アルブミンの糖化度を示す糖尿病関連の検査項目です。アルブミンの糖化は血糖値に比例して上下し、さらに半減期が17日間ととても短いことが知られています。従って、1週間に1回GA値を測定すれば、直近1週間程度の血糖変動を、GA値の変化として簡単に数値化・可視化することができます。さらに有用なことに、GA値は体液中の濃度ではなくアルブミンの分子内比率として測定するため、涙液や唾液でも正確に測定ができる可能性があります。週1回の検査であることに加え、涙液や唾液でも使えるという点から、経済的・低/非侵襲・使いやすい血糖モニタリングの手法として有望です。

そもそも今日、わが国においては、自己注射製剤を使わない2型糖尿病のある方の大半はSMBGやCGMなどの血糖自己測定法が保険適用外であるため、1~3か月に一度の通院時にしか血糖管理の状況が分かりません。上記のGAもこれまで病院検査でしか測定することができませんでした。GA検査を毎週家庭でできるようになれば、週に1度だけGAを検査し、測定結果と過去1週間の行動をアプリで振り返っていただくことで、生活習慣の改善に繋げられる可能性があります。

そこで本研究チームでは、2018年のAMED先端計測事業[3]の支援のもとGAのバイオセンサの開発を進展させるとともに、涙液や唾液のGAが血液のGAと強く相関すること(参考文献1)、並びにGAの通院・隔週測定が、糖尿病のある方に行動変容を引き起こし血糖の悪化を防ぐ可能性(参考文献2)を示しました。さらに2019年のNEDO SCA事業[4]並びに2020年のNEDO PCA事業[5]の支援により、バイオセンサの要素技術と医療機器のプロトタイプ開発を飛躍的に進めることができました。加えて、東京大学医学部附属病院とProvigateの共同研究により、世界初のGAの在宅検査法として、指頭血サンプルを用いた安定的な郵送検査法(HPLC法)を確立(参考文献3)しています。

これらの研究成果を踏まえ、2021年に採択されたAMED健康医療情報事業[6]の支援を受け、医療法人社団 陣内会陣内病院の陣内秀昭院長、東京大学医学部附属病院 糖尿病・代謝内科の相原允一助教、熊本大学病院 糖尿病・代謝・内分泌内科(大学院生命科学研究部)の窪田直人教授、株式会社Provigateの関水康伸代表取締役CEOらによる研究グループは、郵送による週次在宅GA検査と専用の行動変容アプリを併用することで、血糖自己測定を利用しない2型糖尿病のある方の血糖管理が改善するかどうかを検証しました。

【手法】
本研究は、オープンラベル無作為化比較試験として単施設で実施しました。介入期間は8週間であり、HbA1c値が7.0~9.0%の2型糖尿病のある方を対象に日本で実施しました。従来治療のみとした対照群に対し、介入群は、従来の治療に加え、週1回の指頭血の郵送検査による在宅GAモニタリングと、スマートフォンアプリを用いた生活行動の簡単な自己レビューを毎日実施しました。

【結果】
参加者98名(男性72.0%、年齢63.2±11.4歳、HbA1c 7.39±0.39%)を介入群と対照群に無作為に割り付けました。介入群では、ベースラインから最終観察日までのGA値およびHbA1c値の有意な低下が観察されました(それぞれ-1.71±1.37%、-0.32±0.32%)。また、体重、ウエスト周囲長、カロリー消費量の有意な減少(それぞれp<0.0001、p=0.0003、p=0.0346)も観察されましたが、カロリー摂取量の有意な減少は観察されませんでした(p=0.678)。



【考察と今後の展望】
在宅でGA値を測定し行動変容に活かす研究は本研究が世界初の報告です。手軽な週1回の測定で有効に行動変容を誘発するGA×行動変容アプリは、低頻度・低コスト・低/非侵襲な在宅血糖モニタリング法として有望です。研究チームはGAの臨床実用化を目指した研究グループOMEGA Study Group[7]を発足し、指頭血による在宅迅速検査(POCT)法や完全非侵襲な唾液によるGAの郵送検査法の研究開発、及び専用の行動変容アプリの改良も進めています。今後のGA検査の研究成果が、より良い糖尿病治療の実現につながることが期待されます。


発表者・研究者情報
陣内 秀昭(陣内会 陣内病院 理事長/院長)
相原 允一(東京大学医学部附属病院 糖尿病・代謝内科 助教)
窪田 直人(熊本大学病院 糖尿病・代謝・内分泌内科、大学院生命科学研究部 教授)
関水 康伸(株式会社Provigate 代表取締役CEO)


論文情報
雑誌名:Diabetes Therapy
題名:Efficacy of self-review of lifestyle behaviors with once-weekly glycated albumin measurement in people with type 2 diabetes: a randomized pilot study.
著者名:Hideaki Jinnouchi, MD, PhD; Akira Yoshida, PhD; Mariko Taniguchi; Eisaku Yamauchi; Daisuke Kurosawa; Kenji Yachiku, MD, MHA; Itsushi Minoura, PhD; Takashi Kadowaki, MD, PhD; Toshimasa Yamauchi, MD, PhD; Masakazu Aihara, MD, PhD; Naoto Kubota, MD, PhD; Koshin Sekimizu, PhD*
DOI:https://doi.org/10.1007/s13300-024-01599-2


参考文献
1) Aihara M, Jinnouchi H, Yoshida A, et al. Evaluation of glycated albumin levels in tears and saliva as a marker in patients with diabetes mellitus. Diabetes Res Clin Pract. 2023;199:110637.
https://doi.org/10.1016/j.diabres.2023.110637
2) Masakazu Aihara, Takanori Hayashi, Chie Koizumi, et al. Bi-weekly glycated albumin measurement was useful to encourage behavioral changes in people with type 2 diabetes mellitus. Diabetes Therapy. 2023.
https://doi.org/10.1007/s13300-023-01452-y
3) Aihara M, Irie T, Yasukawa K, et al. Development of a high-performance liquid chromatographic glycated albumin assay using finger-prick blood samples. Clin Chim Acta. 2023;542:117272.
https://doi.org/10.1016/j.cca.2023.117272


研究助成
本研究は、2021年度AMED 健康医療情報「週次グリコアルブミン検査データの医師-患者間共有による糖尿病患者の行動変容誘発・重症化予防システムの開発」の支援により実施されました。


脚注
[1] 2012年度 JST START事業「非侵襲型診断医療に向けた半導体バイオセンシングの実用開発研究  ~採血フリーグルコースセンサによる糖尿病患者の負担軽減を目指して~ 」
[2] 2016年度 NEDO STS事業「涙液体外診断薬・臨床検査プラットフォームの開発」
[3] 2018年度 AMED 先端計測事業「モチベーション喚起型血糖コントロール指標測定デバイスの研究開発」
[4] 2019年度 NEDO SCA事業「モチベーション喚起型在宅血糖モニタリングシステムの開発」
[5] 2020年度 NEDO PCA事業「IoT在宅血糖モニタリングシステムの開発」
[6] 2021年度 AMED 健康医療情報事業「週次グリコアルブミン検査データの医師-患者間共有による糖尿病患者の行動変容誘発・重症化予防システムの開発」
[7] https://omega-study.org/


OMEGA Study Groupについて
OMEGA Study Groupは、GAを利用した低侵襲・非侵襲な血糖モニタリング技術およびスマホアプリなどの通信技術を組み合わせ、糖尿病のある方やリスクのある方が、より良い生活を送るための技術開発とその普及を目指した研究グループです。
ウェブサイト:https://omega-study.org/


問い合わせ先
【本件に関してのお問い合わせ先】
陣内会 陣内病院
薬剤部 部長、 治験室 室長
吉田 陽(よしだ あきら)

東京大学医学部附属病院
糖尿病・代謝内科 助教
相原 允一(あいはら まさかず)
<広報担当連絡先>
国立大学法人 東京大学医学部附属病院 パブリック・リレーションセンター
担当:渡部、小岩井
Tel:03-5800-9188 E-mail:e-mail:pr@adm.h.u-tokyo.ac.jp

熊本大学病院
糖尿病・代謝・内分泌内科(大学院生命科学研究部) 教授
窪田 直人(くぼた なおと)
<広報担当連絡先>
国立大学法人 熊本大学総務部総務課広報戦略室
担当:三原
Tel:096-342-3269 E-mail:e-mail:sos-koho@jimu.kumamoto-u.ac.jp

【測定技術・アプリに関すること】
株式会社Provigate 代表取締役CEO
関水 康伸(せきみず こうしん)
e-mail:info@provigate.com

【OMEGA Study Groupに関すること】
e-mail:admin@omega-study.org




糖尿病は血糖値があがる病気。だから糖尿病のある人は血糖を測定する。この様にシンプルに考える人が多いのではないでしょうか。
しかし、一口に血糖測定と言っても、目的は多様です。糖尿病の診断、インスリンの自己注射のドージング、薬の効きすぎなどによる低血糖の回避、行動変容など、血糖測定の場面は実に多様です。目的にあった血糖測定法を上手に選択しなければなりません。

自己血糖測定法には、広く普及しているSMBG(Self-Monitoring of Blood Glucose)や近年普及してきたCGM(Continuous Glucose Monitoring)が有ります。
この2つの血糖測定法は、主にインスリンなどの注射製剤を自己注射される患者さんに合わせて作られています。
この2つの手法以外に、簡便かつ日常的に自宅で血糖を測定する方法はこれまでありませんでした。

インスリンなど一部の薬は、非常に効き目が強いために、使用量を間違えると危険な低血糖を引き起こしかねません。
従って、例えばインスリンを利用する方は、自宅で自己注射をする前に、正確に随時血糖を測定し、注射する量(ドース)を丁寧に決める必要があります。また、注射を打った後にも、低血糖の兆候があるときには、随時血糖を測定し、必要に応じてジュースを飲むなどし、低血糖を回避する必要が有ります。
しかし、いずれの手法も侵襲性が課題となります。また、SMBGは頻回測定をしなければならないので、積み上げると経済的な負担も大きくなります。CGMは連続的に間質液糖が測定できますが、センサの価格が安いものでも6,000円程度し、さらに2週間に一度は付け替える必要が有り、やはり経済的な負担が大きなものです。
SMBGやCGMは、侵襲性や費用の面から、残念ながら万人向けにはなっていません。特に日本では、自己血糖測定が保険適用になっているのは、糖尿病患者の1割以下のインスリンユーザーのみとなっています。

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